事務所概要

事務所名分銅会計事務所
所長名
代表税理士 分銅雅一
(登録番号第123843号)
所在地

〒160-0022
東京都新宿区新宿二丁目3番12号 グレイスビル7F

電話番号03-6380-1093
FAX番号03-6380-1094
業務内容

自社株式と不動産の承継に関連する

1.相続税・譲渡所得税の税務申告

2.相続・事業承継対策の立案及び実行支援

3.個人及び法人の税務顧問

4.セミナー及び研修の講師

適格請求書発行事業者登録番号

T2810600793215

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ブログ 2022年12月23日

<令和5年度税制改正大綱(贈与税と相続税)について>

  令和4年12月16日、自由民主党および公明党から「令和5年度税制改正大綱」が公表されました。公表直前に「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」について議論され、大きなニュースとなりましたが、今回は、税制改正大綱の中から、「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」について紹介していきます。

この「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」については、令和3年度税制改正大綱において、「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討」として本格的な検討を進める旨が記載され、それを具体的に一歩進めた内容として今回公表されました。

今回の改正が実現すると、特に贈与税と相続税の課税関係に大きな影響を与えることが想定されます。

(1)相続時精算課税制度について

まず、相続時精算課税制度については、「相続時精算課税制度の使い勝手向上」というタイトルで、具体的に税制改正大綱では下記のとおり紹介されています。

「相続時精算課税制度は、平成15年度に次世代への早期の資産移転と有効活用を通じた経済社会の活性化の観点から導入されたものである。選択後は生前贈与か相続かによって税負担は変わらず、資産移転の時期に中立的な仕組みとなっており、暦年課税との選択制は維持しつつ、同制度の使い勝手を向上させる。具体的には、申告等に係る事務負担を軽減する等の観点から、相続時精算課税においても、暦年課税と同水準の基礎控除を創設する。これにより、生前にまとまった財産を贈与しにくかった者にとっても、相続時精算課税を活用することで、次世代に資産を移転しやすい税制となる。」(※令和5年度税制改正大綱16頁参照)

今回、注目すべきは、後述予定の暦年課税制度と相続時精算課税制度の選択制は従来と変わらず維持したうえで、相続時精算課税制度においても暦年課税制度と同様に基礎控除額110万円が創設され、さらに当該金額以下であれば、贈与税の確定申告を不要にするといった点です。

この改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用とするとしています。

したがって、例えば令和6年中に1,000万円、令和7年中に500万円をそれぞれ贈与を受けた場合の贈与税の課税対象となる税金は、令和6年について890万円(1,000万円△110万円)、令和7年について390万円(500万円△110万円)となり、かつ、相続時に精算(持ち戻し)対象となる金額も890万円、390円となる点が大きな改正点です。これを図示すると下記の図のとおりです。 


(2)暦年課税制度について

次に暦年課税制度については、「暦年課税における相続前贈与の加算」というタイトルで、税制改正大綱では下記のとおり紹介されています。

「現行、相続開始前3年以内に受けた贈与は相続財産に加算することとなっている。暦年課税においても、資産移転の時期に対する中立性を高めていく観点から、相続財産に加算する期間を7年に延長する。その際、過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減する観点から、延長した期間(4年間)に受けた贈与のうち一定額については、相続財産に加算しないこととする。」(※令和5年度税制改正大綱17頁参照)

 この部分については、さらに第二の具体的内容として下記のとおり記載されています。

「相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該相続の開始前7年以内(現行:3年以内)に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、当該贈与により取得した財産の価額(当該財産のうち当該相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、当該財産の価額の合計額から 100 万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算することとする。

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用する。」(※令和5年度税制改正大綱42頁参照)

 贈与税の暦年課税制度は、一暦年間で受贈者が贈与を受けた総額が110万円までであれば贈与税は元々課税されず、それを超える部分の金額に対して、超過累進税率による税率を乗じて贈与税額を計算していく考え方です。そして、相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続の開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていた部分については、いわゆる「生前贈与加算」として、相続税の計算上、持ち戻しの対象となっていました。

一方で、令和3年度税制改正大綱において、現行の贈与税や相続税の課税について、下記のような問題点が指摘されていました。

「わが国の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある。一方で、現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある。

諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。

今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」(※令和3年度税制改正大綱18頁参照)

 このような富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を図るため、今般、「生前贈与加算」の対象期間が3年から7年に大幅に伸びたものと考えられます。

 一方で、今回の改正により3年より前の伸びた期間の生前贈与加算については、その合計額から100万円を控除した金額が対象となる旨が記載されています。これを図示すると下記の図のとおりとなります。

 以上のように、令和5年度税制改正大綱においては、相続時精算課税制度と暦年課税制度が大きく改正される予定です。

 特に相続時精算課税制度は、一度選択すると暦年課税制度には戻せなくなってしまうため、現状、ほとんどの贈与税の申告は暦年課税制度で提出されていると考えられます。実際、相続時精算課税制度を利用するメリットは、不動産収益物件を贈与して、家賃収入を実質的に贈与者から受贈者へ移転させていくケースや自社株式(取引相場のない株式)を計画的に後継者へ移転させていくような場合に限定されています。一方、単純に現金を贈与したい場合に相続時精算課税制度を選択するようなことは一般的には行われていなかったと思われます。

 ところが、今回の税制改正が実現すると、新たに相続時精算課税制度に基礎控除額110万円が創設され、かつ、110万円部分は精算(持ち戻し)対象とならなくなるため、暦年課税制度から相続時精算課税制度へ移行する納税者が増えるのではと考えられます。

 例年の流れだと、税制改正大綱は年明けの通常国会を経て、毎年3月末ごろに法案成立となります。どちらの改正も令和6年1月1日以後の贈与分からの適用となる予定ですが、今後詳細な内容も早めに確認して、相続対策を有効に行って頂ければ幸甚です。