事務所名 | 分銅会計事務所 |
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所長名 | 代表税理士 分銅雅一 (登録番号第123843号) |
所在地 | 〒160-0022 |
電話番号 | 03-6380-1093 |
FAX番号 | 03-6380-1094 |
業務内容 | 自社株式と不動産の承継に関連する 1.相続税・譲渡所得税の税務申告 2.相続・事業承継対策の立案及び実行支援 3.個人及び法人の税務顧問 4.セミナー及び研修の講師 |
適格請求書発行事業者登録番号 |
<平成30年分相続税の申告事績の概要・平成30年事務年度における相続税の調査等の状況>
令和元年12月20日に国税庁ホームページに「平成30年分相続税の申告事績の概要」および「平成30事務年度における相続税の調査等の状況」が公表されました。
■平成30年分 相続税の申告事績の概要
「平成30年分 相続税の申告事績の概要」によりますと、課税割合については、相続税の基礎控除の改正がされ、ほぼ倍増となった平成27年以降、継続して増加している状況です。
■平成30事務年度における相続税の調査等の状況
一方、「平成30事務年度における相続税の調査等の状況」によると、無申告事案に対する実地調査が1,380件(前年対比113.5%)実施され、申告漏れの非違があったものは1,232件(同120.2%)、追徴税額の総額は101億円(同115%)となっており、統計のある平成17事務年度以降で最多でした。
また、海外資産関連事案に対する実地調査が1,202件(対年対比106.5%)実施され、海外資産に係る申告漏れ等の非違があった件数は144件(同107.5%)、海外取引等に係る申告漏れ課税価格は59億円(同84.2%)となっていて、課税価格は減少したものの件数は増加の一途をたどっています。
海外資産に関しては、平成26年1月から国外財産調書制度が導入されています。具体的には、その年の12月31日時点における国外財産の価額の合計額が5,000万円を超える居住者について、翌年3月15日までに当該財産の種類、数量および価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、税務署長に提出しなければならないとされています。
また、国税庁は、海外の税務当局と連携して海外の口座情報等の入手に力を入れています。
したがって、各納税者におかれましては、海外に財産があればすぐには見つからないだろうとか、これぐらい少額な財産であれば見つからないだろうと安易に考えることなく、各専門家に相談しながら、慎重な対応が求められているといえます。
<会計検査院の報告内容について>
【1】会計検査院の検査報告の内容
2019年11月8日に、会計検査院から内閣に対して、「平成30年度決算検査報告」が送付されました。その中で、会計検査院の指摘に基づき国税当局において改善の処置を講じた事項として具体的に下記の4つが指摘されています。
① 自己の居住の用に供する住宅を対象とした租税特別措置である住宅ローン控除特例等、譲渡特例等及び贈与特例について、適用誤りを防止するために納税者等に交付する手引き等を見直すなどして適用要件等を周知するとともに、申告等情報を活用した審査が十分に実施されるよう審査マニュアルの見直しを行うことなどにより、適用が適正に行われるよう改善させたもの
② 消費税の申告審理等において事業廃止届出書、所得税青色申告決算書等を有効に活用することなどにより、事業の廃止時において棚卸資産以外の資産を保有している個人事業者を的確に把握して当該資産のみなし譲渡について、適正な課税を行うよう改善させたもの
③コンテナ貨物大型X線検査装置の附帯施設等の賃貸借契約について、国庫債務負担行為に基づく賃貸借契約を行っていない国の債務に対して国庫債務負担行為に基づく賃貸借契約を締結することとするよう、また、支出負担行為に関する手続きを行うに当たり会計法令を遵守することを徹底するよう改善させたもの
④ 情報提供契約の締結に当たり、構成品のうち情報を表示するための液晶ディスプレイ等の機器について別途市販品を調達することなどにより、経済的な調達を図るよう改善させたもの
また、国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等について
は、具体的に下記のものが掲げられています。
① 中小企業等の貸倒引当金の特例の適用状況及び検査状況について
② 住宅ローン控除特例及び譲渡特例の適用状況、検査状況等について
これらのうち、住宅ローン控除特例、譲渡特例及び贈与特例について掘り下げて紹介して
いきます。
【2】住宅ローン控除特例、譲渡特例及び贈与特例について
本特例等については、自己の居住用財産に共通したものであり、具体的には下記のものを指します。
これら3つの特例について、会計検査院からの指摘事項の概略は次のとおりです。
まず、納税者が自己の居住用財産を買い替えた際、旧物件の譲渡所得についての譲渡特例と買換物件の住宅ローン控除特例は、原則として併用が認められていません。具体的には、譲渡特例を適用した場合には、その年の前後2年間は住宅ローン控除特例を適用することが認められていません。それにも関わらず、両特例を併用している事案が複数見られたということです。
次に、自己の居住用財産を取得するにあたって、住宅ローン控除特例と贈与特例を併用するケースが考えられます。これらの特例を併用することは認められていますが、住宅ローン控除特例を適用する場合には、年末借入金残高の1%(上限あり)と物件の取得対価を比較する必要があります。そして、この取得対価は、本体価格から贈与特例を受けた金額相当額を控除する必要があります。
本来、これらを比較していずれか小さい金額が住宅ローン控除特例の対象となりますが、年末借入金残高の1%を選択している事案が複数見られたということです。
このケースは例えば、金融機関からは物件の取得価額全額について住宅ローンを組んでおきながら、直系尊属から贈与税の非課税限度額の範囲内で住宅取得等資金の贈与を別途受けている場合に起こりえます。
これらの会計検査院からの指摘事項に対して、各税務署において調査したところ、455もの税務署において誤りが発見されたということです。この誤りが発生した原因は、3特例の適用に係る資産を担当する部門と書類を管理する部門が異なる点であるといわれています。
現在、各税務署から納税者に対して、上記の適用誤りについて随時、書面等で通知が行われています。令和元年分の確定申告も年明けから本格化しますが、本年は消費税の増税に伴い、住宅ローン控除特例も贈与特例も見直しが行われています。また、不動産市況も時価が上昇して取得時期等によっては譲渡所得が発生しやすい状況です。これらの3特例の適用については、慎重な検討・判断が求められます。
なお、住宅ローン控除特例と譲渡特例については、例えば旧物件の譲渡があった年の翌々々年に新物件を購入した場合には両特例の併用適用が認められていましたが、12月12日に公表された令和2年度税制改正大綱の中で、当該併用適用を認めないこととする旨が明記され、今後は両特例を同時に適用することはできなくなる見込みです。
<中小・小規模事業者向けのキャッシュレス決済普及の促進について>
(1)キャッシュレス決済普及促進制度実施の背景
日本のキャッシュレス決済比率は21%に留まり、諸外国に比べて極めて低い状況です。政府は、「未来投資戦略2018」でキャッシュレス決済比率を40%台まで高めることを目指しています。
これまで日本でキャッシュレス化が進まなかった理由としては、消費者の現金に対する信頼が高いこと、中小・小規模事業者などがキャッシュレス化に対応するための機器導入コスト負担およびカード会社等の決済事業者へ支払う加盟店手数料のコスト負担を忌避し、対応を見送ってきたことなどがあげられます。
そこで、消費税増税に伴う消費低迷の回避策として、キャッシュレス決済を前提として「ポイント還元」を実施することとなり、その効果を広く得るためには中小・小規模事業者のキャッシュレス対応を促進する必要があります。
(2)制度の内容
本制度の狙いは、消費税増税後の消費喚起、中小・小規模事業者の支援、キャッシュレス化推進等にあります。
実施期間は、令和元年10月1日から令和2年6月30日までの9か月間であり、具体的な中小・小規模事業者の対象者は、中小企業基本法における中小企業者の定義を準用し、消費者へのポイント還元率は5%となります(フランチャイズ店では2%の還元となり、大手事業者の店舗では還元の対象となりません)。
キャッシュレス決済端末等の導入負担は、決済端末等の費用2/3が国庫負担、残りの1/3が決済事業者負担となるため、決済事業者の負担は事実上ゼロとなります。また、キャッシュレス決済を行う際に支払う加盟店手数料(上限も3.25%)の1/3を国庫負担となっています。
以上より、実質的に設備投資の負担を伴わずにキャッシュレス決済端末等を整備できることが可能となります。
(3)軽減税率対策補助金制度との比較
本制度は、消費税の軽減税率の対象となる飲食料品等を販売していない事業者を対象としていますが、同じような制度として、飲食料品等を販売し消費税の軽減税率の対応が必要な事業者向けの軽減税率対策補助金制度が存在します。
軽減税率対策補助金制度は、飲食料品等を扱う中小・小規模事業者の軽減税率対応を支援する目的から複数税率対応のレジと併せて、付属機器として決済端末等を導入する際に係る費用を補助する制度である。具体的な内容は、レジ本体およびレジに付属する機器(決済端末を含む)等の導入費用の3/4を国庫負担とすることが柱となります。つまり、中小・小規模事業者はこれらの設備を1/4の負担で導入することができることとなります。
※「経済産業省>キャッシュレス・消費者還元事業>キャッシュレス決済端末に関する支援の比較 [PDF]
(https://cashless.go.jp/)」参照。
<書面添付制度について>
財務省から、このほど「平成30年事務年度 国税庁実績評価書」が公表されました。
この実績評価書によると、平成30年事務年度における税理士法第33条の2に規定する書面添付の割合は、所得税1.4%、相続税20.1%、法人税9.5%となっています。
(1)書面の添付割合(所得税・相続税・法人税)の推移
国税庁実績評価書によりますと、書面添付制度の普及・定着に向けた積極的な取組を実現するために目標設定を行っており、その設定の根拠を下記のとおり掲げています。
「書面添付制度の普及・定着を図ることは、正確な申告書の作成・提出に資するとともに、税務行政の円滑化が図られ、また、添付書面の作成者である税理士の社会的信用の向上にもつながり、ひいては信頼される税理士制度の確立に結び付くものである。
申告書に添付された書面の記載内容の充実及び添付割合の向上が図られるよう、税理士会等との協議会等において積極的に意見交換を行うことは、当該制度の普及・定着に重要であることから目標として設定している。」
税理士法第33条の2に規定する書面添付の割合の推移については、下記のとおりです。
(出所) 課税部個人課税課、資産課税課、法人課税課調
(2)税理士の関与割合(所得税・相続税・法人税)の推移
税理士の関与割合の推移については、下記のとおりです。
(出所) 課税部個人課税課、資産課税課、法人課税課調
平成28年度から平成29年度の書面添付の割合および税理士の関与割合につきましては、相続税の税理士の関与割合を除き、微増していることが分かります。相続税の税理士の関与割合の減少に関しては、平成27年1月1日以降から発生した相続について、基礎控除が引き下げられ、新たに課税対象者に該当することになったものの、税理士には依頼せず、自分で申告した人数が一定数存在したことを物語っています。
一方で、相続税の書面添付割合の伸び率が顕著です。これは、必要なことを具体的に記載してある書面が添付してあれば、税務調査を受けることになった場合、意見陳述の機会が与えられることに基因していると考えられます。つまり、意見聴取で疑問点が解消した場合など、結果的に実地調査の省略もあり得るだろうし、書面添付に取り組めば、関与税理士も申告書の作成についてより意識を傾注するようになり、顧客の信頼度や事務所全体の業務水準も違ってくることとなります。
書面添付制度を充分に理解して大いに活用し、申告納税制度のもと税理士の権利の一つとして拡充定着することに期待します。
<消費税改正後の確定申告書作成の留意事項について>
10月1日、消費税の標準税率が10%となり、併せて、軽減措置が導入されました。課税期間が10月1日以後に到来する法人につきましては、新税率に基づいた確定申告書を、課税期間終了の日から2か月以内に提出する必要があります。
改正後の申告書作成における留意事項につきましては下記のとおりです。
(1)最大5種類の税率適用について
改正後の消費税実務では、過去の消費税の税率を含め、最大5種類の税率区分による取引を記帳する必要が生じます。消費税および地方消費税の税率の推移は下記のとおりです。
実務上の多くの取引は、平成26年4月以降の税率によると考えられますが、平成26年3月以前に発生した売上債権等の貸倒れ等につきましては、税率5%での記帳が求められるため、すべての税率に対応した記帳および取引発生時の課税ルールを正しく把握することが求められます。
(2)確定申告書の作成手順
消費税確定申告書の作成手順自体は、従来と大きく変わりませんが、下記の三点について、留意すべき点があります。
一点目は、課税売上高を標準税率分、軽減税率分、経過措置分にそれぞれ区分して、課税標準額および課税標準額に対する消費税額を計算し、その後合算する必要が生じた点です。この点が従来の消費税実務とは全く異なる部分であり、単一税率時代と比較して、消費税を含めた記帳処理が今まで以上に、より重要となります。
二点目は、地方消費税の計算にあたり、令和元年10月以降分につきましては、一旦国税による消費税額を合計し、当該金額に22/78を乗じて一括して計算していく点です。
三点目は、税率区分が増えたため、新たに付表1-2と付表2-2として、「経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用」の計算表が追加された点です。
以上をふまえて、課税売上高が5億円以下、かつ、課税売上割合が95%以上の場合の消費税確定申告書の作成手順(一般用)と各様式の名称については、下記のとおりです。
1.付表1-1、付表1-2の「課税標準額」および「消費税額」の作成
第4-(1)号様式 付表1-1
税率別消費税額計算表 兼 地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
第4-(5)号様式 付表1-2
税率別消費税額計算表 兼 地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
(経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用)
2.付表2-1、付表2-2の作成
第4-(2)号様式 付表2-1 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表
第4-(6)号様式 付表2-2 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表
(経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用)
3.付表1-1、付表1-2の「控除税額」以下を作成
4.付表1-1、付表1-2を基に第二表を作成
第3-(2)号様式 第二表 課税標準額等の内訳書
5.第二表、付表1-1、付表1-2を基に第一表を作成
第3-(1)号様式 第一表 消費税及び地方消費税の申告書
以上のように、消費税の確定申告の作成実務自体は、従来と大きな変化は生じませんが、スムーズに確定申告書の作成をするには、日々の記帳・区分経理の実践がきわめて重要となります。そして、日々の記帳・区分経理の実践が適切に行われており、会計ソフトから税務ソフトへの連動が自動で行われるシステムが構築されていれば、消費税申告の実務は、大きな混乱なく遂行できることでしょう。
<取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)について>
● 改正の概要
令和元年度の税制改正において、地方法人特別税が廃止され、併せて特別法人事業税が創設されることに伴い、純資産価額方式における「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」の算定に用いる「法人税(地方法人税を含む。)、事業税(地方法人特別税を含む。)、道府県民税および市町村民税の税率の合計に相当する割合(以下「法人税率等の合計割合」という。)」の文言を整理するなど所要の改正が行われました。
● 改正内容
具体的には、「法人税率等の合計割合」の算定根拠について、下記「改正前」の該当部分を、次のとおり改正することとしました。
それでは、具体的に法人税率等の合計割合は変わるのでしょうか。この点については、下記≪参考≫のとおり、地方法人特別税の廃止および特別法人事業税の創設に伴う令和元年10月1日以後の「法人税率等の合計割合」は同じ割合(37%)となることから、その割合については変わらないこととなります。
したがって、法人税率等の合計割合は改正前後で変わりませんが、税目および元号の名称が変更となったことから、「相続税および贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式および記載方法等」の内容も令和元年10月1日以降分から変更となっている点に留意する必要があります。
<e-Tax又は光ディスク等による法定調書の提出義務基準引下げについて>
令和3年1月1日以降の法定調書の提出分より、法定調書の種類ごとに、前々年の提出すべき当該法定調書の枚数が100枚以上(現行は1,000枚以上)である法定調書につきましては、e-Tax(国税電子申告・納税システム)又は光ディスク等による提出が必要となりました。
令和3年1月分の為、かなり先のように感じますが、法定調書の枚数100枚以上の判定基準は前々年であるため、令和元年分の提出枚数によって、令和3年の法定調書の提出が強制的に電子化されることとなります。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/hikari_gimu.pdf 参照
例えば、令和元年に提出した「給与所得の源泉徴収票」の枚数が「100枚以上」であった場合には、令和3年に提出する「給与所得の源泉徴収票」は、e-Tax又は光ディスク等により提出する必要があります。
また、給与所得(および公的年金等)の源泉徴収票のe-Tax又は光ディスク等による提出が義務付けられた年分については、市区町村に提出する給与支払報告書(および公的年金等支払報告書)についても、eLTAX(地方税ポータルシステム)又は光ディスク等による提出が義務化されています。
なお、これらの提出義務の判定は、法定調書の種類ごとに行う必要があり、e-Tax又は光ディスク等による法定調書の提出が義務付けられていない方が、光ディスク等により法定調書を提出する場合には、税務署への事前の申請と税務署からの承認が必要となる点にご留意ください。
<平成30年度におけるe-Taxの利用状況等について>
令和元年8月30日、国税庁のWebサイトに「平成30年度におけるe-Taxの利用状況等について」が公表されました。国税庁では、デジタルガバメントの実現に向けた政府全体の方針に基づき、e-Taxの普及および定着に取り組んでいます。
平成30年度における各申告手続等のオンライン利用率等の実績値については、下記のとおりです。
個人の申告に比べると法人の申告場面において、オンラインが利用されている割合が相対的に高い状況です。特に、令和2年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から大法人の電子申告の義務化が始まる予定であり、法人税や消費税の申告については、さらにオンライン利用率は高まることが考えられます。
※1オンライン利用率とは、申告等各手続の総件数のうち、e-Tax を利用して行ったものの件数(e-Tax の利用件数)が占める割合のことをいいます。
※2 ICT活用率とは、所得税申告および消費税申告(個人)の総件数のうち、「e-Tax 利用件数」と「国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーを利用して作成した申告書を印刷して書面により税務署に提出した件数」の合計件数が占める割合のことをいいます。
税目ごとの具体的な利用件数やICT活用率は、下記のとおりです。
<個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度(個人版事業承継税制)について>
平成31年度税制改正において、個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度(以下、「個人版事業承継税制」とします。)が創設されました。平成30年度税制改正においても自社株式に係る納税猶予制度の特例(以下「法人版事業承継税制」とします。)が創設され、前年度における認定申請件数が400件程度であったのに対して、特例創設後の特例承継計画の申請件数が4,000件に迫る勢いとなり、大きな注目を浴びています。
この個人版事業承継税制について、法人版事業承継税制や小規模宅地等の特例制度と比較しながら概説します。
(1)法人版事業承継税制との比較
2025年に70歳以上となる個人事業者が約150万人と推計される中、個人事業の円滑な承継を図るために、個人版事業承継税制が創設されました。その主な適用対象者は、個人経営の(歯科)医師、酒造メーカー、飲食店、理容師や美容師、税理士や公認会計士といった士業等が考えられます。特に、医療法人や税理士法人については、昨年創設された法人版事業承継税制の適用対象とはなりません。
したがって、事業用資産が占める割合が大きい個人事業主については、事業を継続するか法人成りするか、今後は事業承継の場面も見据えて検討する必要があると考えられます。
この個人版事業承継税制については、法人版事業承継税制との共通点が多く、要点を比較すると次のようになります。
(2)小規模宅地等の特例制度との比較
個人版事業承継税制については、特例事業承継税制と異なり、小規模宅地等の特例制度との併用が認められず選択適用となります。
一般的に、個人版事業承継税制は事業承継者である相続人にとっては、猶予割合が100%となり有利となる一方で、事業を承継しない相続人が相続した財産に係る相続税の金額は変わりません。これに対して、小規模宅地等の特例制度は100%猶予ではないものの、課税価格そのものが80%減額されることから、課税価格の合計額も下がり、事業を直接承継しない相続人にとっても有利に働きます。
このような点も踏まえ、特に土地については、個人版事業承継税制の適用の有無について慎重な判断が求められます。
<消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)の改訂について>
令和元年10月1日の消費税率の引き上げと同時に、消費税の軽減税率制度が実施される予定です。これに先立って、国税庁消費税軽減税率制度対応室から「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)の改訂が公表されました。キャラクターを印刷したお菓子の缶箱等の取扱いなど、下記に示すとおり、4項目が改訂され、新たに19項目が追加されています。主だった追加項目について、その取扱いを簡単に触れていきます。
・キャラクターを印刷したお菓子の缶箱等(問26)
キャラクターを印刷した缶箱にお菓子を詰めて販売しているような場合については、キャラクター等が印刷されたものであっても、基本的には、その販売に付帯して通常必要なものとして使用されるものに該当するため、一般的に軽減税率の適用対象となります。
・セット商品のうち一部を店内飲食する場合(問60)
ファストフード店において、一の商品であるハンバーガーとドリンクのセット商品を販売する際に、顧客からドリンクだけを店内飲食すると意思表示された場合については、当該店舗において、一のセット商品の一部をその場で飲食させるために提供したものと考えられるため、そのセット商品の販売は、「食事の提供」に該当し、顧客がドリンク以外を持ち帰ったとしても軽減税率の適用対象とはなりません。
一方、持ち帰りのハンバーガーと店内飲食するドリンクを単品で販売する場合、持ち帰りのハンバーガーは「飲食料品の譲渡」として軽減税率の適用対象となり、店内飲食するドリンクは「食事の提供」として軽減税率の適用対象となりません。
・紙の新聞と電子版の新聞のセット販売(問102)
定期購読契約が締結された週2回以上発行される紙の新聞と電子版の新聞をセット販売している場合には、セット販売の対価の額を軽減税率の適用対象となる「紙の新聞」の金額と、軽減税率の適用対象とならない「電子版の新聞」の金額とに区分した上で、それぞれの税率が適用されることとなります。
これは、軽減税率の適用対象となる「新聞の譲渡」が、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞の定期購読契約に基づく譲渡をいい、他方、インターネットを通じて配信する電子版の新聞は、電気通信回線を介して行われる役務の提供である「電気通信利用役務の提供」に該当するため、「新聞の譲渡」には該当しないことから、軽減税率の適用対象とはなりません。
<相続税の電子申告(e-Tax)開始について>
令和元年10月から、一部の帳票を除き相続税の電子申告(e-Tax)が開始される予定です。具体的には、平成31年1月以降の相続発生分からが対象となります。
国税庁は、いわゆる「スマート税務行政」の実現に向けて、電子申告(e-Tax)の整備・拡充を進めています。平成30年分の所得税の確定申告から限定的ですが、スマートフォンでの確定申告が可能となりました。
さらに、一定規模以上の大法人に関して、法人税、法人住民税、法人事業税および消費税等の納税申告書については、令和2年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から電子申告(e-Tax)によることが義務づけられるため、電子申告(e-Tax)がさらに普及することが予想されます。
相続税については、一般的に相続人全員で一つの申告書を作成し、その申告書に押印等を行う必要があることから、所得税や贈与税のように個人単位で作成されるものではなく、電子申告化へのハードルは高いと思われていました。そういう意味でも相続税における電子申告(e-Tax)化は、画期的であるといえます。
相続税の電子申告(e-Tax)の特徴は、主に下記のとおりです。
・平成31年1月1日以降に相続等により財産を取得した方の相続税申告が対象
・電子申告(e-Tax)の対象帳票は一定のもの(21帳票)に限定(下記参照)
・税理士は複数の相続人(最大9名分)の相続税申告書をまとめて代理送信することが可能(納税者本人である各相続人の電子署名は省略でき、税理士による一括代理送信が可能)
・相続税申告書に添付する書類についてイメージデータ送信が可能
・電子申告(e-Tax)の受信通知からの電子納税が可能
ここで留意すべき点として、電子申告(e-Tax)の対象帳票は一定のものに限られるという点です。具体的には下記の21帳票に限られるため、相続税の納税猶予等の特例の適用を受ける場合や延納・物納の申請を行う場合などは、従来どおり書面での提出が必要となります。
今後、これらの帳票も少しずつ電子申告(e-Tax)化が進むものと思われます。特に、相続税の納税猶予等の特例の適用を受ける場合には、各都道府県にも認定申請書等を提出する必要があるため、納税者(相続人)、各都道府県および各税務署が電子媒体で繋がることによって、納税猶予等の手続が大幅に簡素化されることを期待します。
<令和元年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について>
令和元年6月12日に国税庁より、「令和元年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)」が公表されました。
この法令解釈通達では、令和元年分の相続税及び贈与税の申告のため、取引相場のない株式を原則的評価方法の一つである類似業種比準方式により評価する場合、その算定に必要となる業種目別の1株当たりの配当金額、利益金額、簿価純資産価額及び株価について定めています。
類似業種比準方式において、類似業種の株価は、課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価のうち最も低いものを利用できます。ただし、納税義務者の選択により、類似業種の「前年平均株価」または「課税時期の属する月以前2年間の平均株価」によることができるとされています。
したがって、国税庁から公表される「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について」も課税時期の属する月の前々月の株価等までが掲載されています。
ここで留意すべき点は、今回公表された法令解釈通達において、業種目ごとに標本会社が見直されている可能性がある点です。具体的には、今回公表された「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和元年分)」における「平成30年11月分」及び「平成30年12月分」の株価と、前回公表された「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(平成30年分)」における平成30年11月分」及び「平成30年12月分」の株価は、標本会社が見直されている結果、異なるケースがあるということです。
具体例として、下記に掲げる「建設業(総合工事業)」の株価を比較してみてください。どちらの表にも「平成30年11月分」及び「平成30年12月分」の株価が記載されていますが、両者の金額は異なっています。この場合、課税時期が令和元年以降のものについては、「令和元年分」の表に記載されている株価を利用し、「平成30年分」の表に記載されている株価は利用しないこととなります。そのため、課税時期がいつ発生したものかによって、利用する表も異なってくるので留意する必要があります。
<改元に伴う源泉所得税の納付書の記載のしかたについて>
国税庁より、令和元年5月に「改元に伴う源泉所得税の納付書の記載のしかた」について公表されました。令和元年7月10日は、平成31年1月から令和元年6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税に係る「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納期特例分)」の納付(提出)期限となりますので、納付書の記載のしかたについて、下記を中心に今一度確認をお願いします。
1. 源泉所得税の納付の際には、改元後においても、「平成」が印字された「源泉所得税の所得税徴収高計算書(納付書)」を引き続き使用することが可能です。
2.納付書の印字されている「平成」の二重線による抹消や「令和」の追加記載などの補正は不要です。
3.平成31年4月1日から令和2年3月末日までの間に納付する場合、納付書左上の「年度欄」は「31」と記載します。
4.「令和」が印字された納付書は、税務署で10月以降に順次配布予定です。
なお、「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納期特例分)」以外の納付書についても同様に「平成」が印字されたものを引き続き使用できますが、上記設例を参考に記載する必要があります。
•利子等の所得税徴収高計算書
•配当等の所得税徴収高計算書
•給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(一般用)
•非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書
•報酬・料金等の所得税徴収高計算書
•定期積金の給与補てん金等の所得税徴収高計算書
•上場株式等の源泉徴収選択口座調整所得金額及び源泉徴収選択口座内配当等・未成年者口座等において契約不履行等事由が生じた場合の所得税徴収高計算書
•償還差益の所得税徴収高計算書
•割引債の償還金に係る差益金額の所得税徴収高計算書
<非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらましについて>
令和元年5月22日に国税庁から「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」が公表されました。
前回の平成30年4月に公表されたあらましからの主な変更点は下記のとおりです。
1.資産管理会社の確認期間の緩和(あらまし11頁)
2.後継者である受贈者の主な要件のうち「20歳以上」について令和4年4月1日以降の贈与については「18歳以上」となる旨の追加(あらまし3頁)
3.「事業承継税制」から「法人版事業承継税制」へ名称変更
4.「平成」から「令和」へ元号の名称変更
このうち、実質的な内容の変更となる上記1.および2.について概説いたします。
1.資産管理会社の確認期間の緩和(あらまし11頁)
令和元年度(平成31年度)税制改正において個人版事業承継税制が創設されましたが、法人版事業承継税制についても一部改正がありました。その中心が、資産管理会社(資産保有型会社および資産運用型会社)の確認期間の緩和についてです。
(1)資産保有型会社
会社が資産保有型会社に該当するかどうかの確認を行う期間について、事業活動のために必要な資金の借入れを行ったことなど一定の事由が生じたことにより当該期間内のいずれかの日において会社に係る特定資産の割合が100分の70以上となった場合には、その事由が生じた日から同日以後6か月を経過する日までの期間を除くこと
(2)資産運用型会社
会社が資産運用型会社に該当するかどうかの確認を行う期間について、事業活動のために必要な資金を調達するために特定資産(※)を譲渡したことなど一定の事由が生じたことによりその期間内に終了するいずれかの事業年度における会社に係る総収入金額に占める特定資産の運用収入の割合が100分の75以上となった場合には、その事業年度の開始の日からその事業年度終了の日の翌日以後6か月を経過する日の属する事業年度終了の日までの期間を除くこと
※ 特定資産とは、現金、預貯金、有価証券、会社が自ら使用していない土地など
上記のいずれも、改正前は、会社が資産保有型会社または資産運用型会社に該当するかどうかの確認を行う期間は設けられておらず、上記割合以上となった場合には、直ちに資産保有型会社または資産運用型会社に該当することとされていました。
この点、本件改正によって、事実上6か月間の猶予期間が設けられた意義は大きくなります。
2.後継者である受贈者の主な要件のうち「20歳以上」について令和4年4月1日以降の贈与については「18歳以上」となる旨の追加(あらまし3頁)
本件の改正は、民法の改正に伴う措置です。民法において、令和4年4月1日から成人年齢が現在の20歳から18歳に引き下げとなります。この民法規定と足並みを揃える形式で本件の取り扱いも18歳以上であれば受贈者の要件を満たすこととなります。
ただし、この取り扱いは令和4年4月1日以降の贈与について適用となりますので、例えば令和4年2月10日に18歳の後継者の非上場株式等を贈与した場合は適用されないため留意する必要があります。
なお、本件以外にも受贈者側の年齢要件が「20歳以上」から「18歳以上」に変更となる取り扱いは、下記のとおりです。
・相続税の相続時精算課税制度(原則)
・相続税の相続時精算課税制度(住宅取得等資金の特例)
・直系尊属から贈与を受けた場合の非課税の適用者
・直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の特例税率の適用
<空き家の3,000万円特別控除(老人ホーム入居要件)について>
2019年度の税制改正において、空き家の3,000万円特別控除について、老人ホームに入居した場合の要件が新たに新設されました。一方で、相続税の計算における小規模宅地等(特定居住用宅地等)の特例においても老人ホームに入居した場合の要件が存在します。両特例における老人ホームに入居した場合の要件は一部異なる点があるため、その適用に際しては留意する必要があります。
1.要介護認定等を受けた時期について
従来から存在している相続税の小規模宅地等の特例において、要介護認定等の判定については、原則として相続開始の日の直前の状況で判定しますが、空き家の3,000万円特別控除については、老人ホームの入居直前の状況で判定します。つまり、小規模宅地等の特例においては、被相続人が相続発生前に老人ホームに入居し、入居後に要介護認定を受け、その後相続が発生した場合は適用対象となりますが、空き家の3,000万円特別控除については適用対象となりません。
なお、老人ホームに入居後、相続開始前に要介護認定等を申請していたものの、認定を受けることなく相続が発生し、その後認定を受けたようなケースも考えられます。小規模宅地等の特例については、このような場合であっても適用対象として認めています(国税庁:質疑応答事例「老人ホームに入所していた被相続人が要介護認定の申請中に死亡した場合の小規模宅地等の特例」参照)。
空き家の3,000万円特別控除についても同様に、老人ホーム入居前に要介護認定を申請し、入居後に認定を受けるようなケースも想定されます。このようなケースについても適用対象となるかどうかは、今後国税庁から明らかにされる可能性があります。
2.老人ホーム入居後に同居親族が引き続き居住していた場合について
小規模宅地等の特例については、被相続人が老人ホームに入居後も、入居前から被相続人と同居していた親族が引き続き居住を継続していても特例の適用対象となります。そもそも、配偶者以外の同居親族が本特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限までその同居親族が引き続き、所有しかつ居住することが要件となります。
一方で、空き家の3,000万円特別控除については、被相続人が老人ホームに入居した場合、その自宅が被相続人の物品保管等に供されていて、被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないことが要件となります。つまり、被相続人が老人ホームに入居した後も、同居親族が引き続き居住していた場合は、本特例を適用することはできません。
したがって、上記のようなケースの場合には、両方の特例を同時に受けることはできないため、その適用の是非については留意する必要があります。