事務所名 | 分銅会計事務所 |
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所長名 | 代表税理士 分銅雅一 (登録番号第123843号) |
所在地 | 〒160-0022 |
電話番号 | 03-6380-1093 |
FAX番号 | 03-6380-1094 |
業務内容 | 自社株式と不動産の承継に関連する 1.相続税・譲渡所得税の税務申告 2.相続・事業承継対策の立案及び実行支援 3.個人及び法人の税務顧問 4.セミナー及び研修の講師 |
適格請求書発行事業者登録番号 |
<直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置について>
令和2年12月10日に、令和3年度の税制改正大綱が公表され、12月21日に閣議決定されました。
令和3年度の税制改正大綱の中で、個人住宅に関する税制として、いわゆる住宅ローン控除の改正が注目されていますが、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置」についても、一部改正が行われる予定です。
注目すべき点は、下記の2点です。
・非課税限度額の上限についての引き上げ
・適用対象となる床面積制限の下限の引き下げ
このうち、「非課税限度額の上限」は、平成28年度の税制改正において、平成33年(令和3年)12月31日までの契約における非課税限度額が、下記のとおり決定していましたが、今回の税制改正大綱においては、赤枠部分の上限を平成32年(令和2年)4月1日から平成33年(令和3年)3月31日までの契約における非課税枠を据え置く案となっています。
これは、新型コロナウイルスの影響による先行きの不透明さなどを背景に、消費者においても住宅取得環境が厳しさを増しているのが一因といえます。
(注1)受贈者ごとの非課税限度額
新築等をする住宅用の家屋の種類ごとに、受贈者が最初に新非課税制度の適用を受けようとする住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日に応じた金額となります。
(注2)住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率
個人間の売買で、建築後使用されたことのある住宅用の家屋(中古住宅)を取得する場合には、原則として消費税等がかからないので上記2の表には該当しません。
(注3)住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日
新非課税制度の適用を受けるためには、平成33年12月31日までに贈与により住宅取得等資金を取得するだけではなく、住宅用の家屋の新築等に係る契約を同日までに締結している必要があります。
(注4)省エネ等住宅
エネルギーの使用の合理化に著しく資する住宅用の家屋、大規模な地震に対する安全性を有する住宅用の家屋等をいいます。
※国税庁ウェブサイト「「住宅取得等資金の贈与税の非課税」のあらまし」参照
また、「適用対象となる床面積制限」については、内需の柱となる住宅投資を幅広い購買層に対して喚起するために、経済対策として住宅ローン控除の適用床面積を40平米以上のもので一定の要件を認めたことに伴い、本特例もその引き下げを行うといった内容となっています。ただし、この40平米以上の特例は、受贈者が贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下である場合に限るとしています。
したがって、下記のとおり、床面積の下限と受贈者の合計所得金額が関係するので注意を要します。
床面積50平米以上 → 合計所得金額2,000万円以下
床面積40平米以上 → 合計所得金額1,000万円以下
「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置」については、所得税における住宅ローン控除と並び、個人がマイホームを取得する際に、大きな税制特例の2つとして、多くの方が利用しています。改正予定の要件等を確認して、上手に本特例を適用して頂ければ幸甚です。
〈住宅税制の床面積要件について〉
令和3年度の税制改正において、住宅ローン控除の床面積要件の基準が緩和される見込みです。もともと床面積が50平米以上のものが住宅ローン控除の対象でしたが、40平米以上のものも対象となる予定です。
一方で、この床面積要件の50平米以上については、住宅ローン控除以外の税制についても存在します。具体的には、下記の項目についてです。
【国税】
<所得税>
・居住用財産の買換え特例制度(買換資産の床面積要件、家屋について上限なし)
・居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失に係る繰越控除制度(買換資産の床面積要件、家屋について上限なし)
<贈与税>
・直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度(上限240平米まで)
・相続時精算課税選択の特例制度(上限なし)
<登録免許税>
・住宅用家屋の軽減税率制度(上限なし)
【地方税】
<不動産取得税>
・新築住宅を取得したときの不動産取得税の軽減制度(上限240平米まで)
・居住用の中古住宅を取得したときの不動産取得税の軽減制度(上限240平米まで)
・中古住宅は個人の自己居住用のみが対象ですが、新築住宅は貸家も対象となり、一戸建て以外の貸家の場合、床面積要件は40平米以上となります。
<固定資産税>
・新築住宅に係る固定資産税の減額制度(上限280平米まで)
・貸家も対象となり、一戸建て以外の貸家の場合、床面積要件は40平米以上となります。
なお、国税と地方税で床面積要件の考え方が若干異なる点に留意する必要があります。具体的には、国税の各種特例制度については、登記床面積で判断することとなり、これはパンフレット等に記載されている専有面積と異なります。分譲マンション等のパンフレット等に記載されている専有面積は壁の中心(壁芯)を基に計算をしますが、登記床面積は内法(うちのり)によって計算します。したがって、登記床面積はパンフレット上の専有面積より少ないことになります。
一方、地方税の各種特例制度については、登記床面積に対して課税床面積を用います。登記床面積は延床面積のことであり、戸建やマンションのメゾネットタイプの場合には各階の床面積を合計したものが延床面積となります。これに対して、マンション等の不動産取得税や固定資産税計算上の床面積は、共有部分を加算した床面積を課税床面積として税額を求める。この課税床面積は、固定資産税評価証明書により知ることができます。
以上のとおり、住宅税制の床面積要件については、国税と地方税でその面積そのものの考え方が異なると共に、各種特例制度上、上限が設けられているものも存在するので、今後住宅の取得を検討している方は、是非ご留意いただきたいです。
オンライン提出について〉
令和3年1月から、個人の振替依頼書及びダイレクト納付利用届出書がe‐Taxで提出可能となる予定です。パソコンやスマートフォンからe‐Tax(Web版・SP版)にログインし、入力画面に沿って必要事項を入力することにより、振替依頼書等の記入や金融機関届出印の押印なしに、オンラインで振替依頼書等を提出できるようになります。
政府は、来年度にデジタル庁の創設を目指しており、「認印」による行政手続き上の押印も廃止に向けて加速しています。今回の動きもその一つであるとみられます。
ここで、国税の納付手続について改めてまとめると下記のとおりとなります。
納付手続 |
納付方法 |
便利に利用できる方 |
納付手続に必要となるもの |
ダイレクト納付
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e-Taxによる簡単な操作で預貯金口座からの振替により納付する方法 |
‣e-Taxで申告等をされている方 ‣源泉所得税を納めている方(源泉徴収義務者)など、頻繁に納付手続をされている方 ‣日付を指定して納付をされたい方 |
‣e-Taxの開始届出書の提出 ‣ダイレクト納付利用届出書の提出 |
インターネットバンキング等 |
インターネットバンキング等から納付する方法 |
‣e-Taxで申告等をされている方 ‣インターネットバンキングやモバイルバンキングを利用されている方 |
‣e-Taxの開始届出書の提出 ‣インターネットバンキング又はモバイルバンキングの契約 |
クレジットカード納付 |
「国税クレジットカードお支払サイト」を運営する納付受託者(民間業者)に納付を委託する方法 |
‣インターネットに接続できるパソコン等をお持ちの方 ‣クレジットカードを利用されている方 |
‣クレジットカード ‣決済手数料 |
コンビニ納付(QRコード) |
コンビニエンスストアの窓口で納付する方法 |
‣金融機関や税務署が近隣にない方 ‣インターネットに接続できるパソコン等をお持ちの方 |
コンビニ納付用QRコード |
コンビニ納付(バーコード) |
‣金融機関や税務署が近隣にない方 ‣税務署からバーコード付納付書の送付を受けられた方 |
バーコード付納付書 | |
振替納税 |
預貯金口座からの振替により納付する方法 |
申告所得税や消費税(個人)の確定申告書を毎年提出する必要のある方 |
振替依頼書の提出 |
窓口納付 (金融機関や税務署の窓口) |
金融機関又は所轄の税務署の窓口で納付する方法 |
上記の手続により納付ができない方 |
納付書 (金融機関の窓口で納付する場合) |
e‐Taxの開始届出書は従来からオンライン提出が可能でしたが、今回、上記表中の赤字の箇所の書類についてもオンライン提出が可能となる予定です。コロナ禍も相まって、今後は「窓口納付」から「振替納税」や「ダイレクト納付」による納付手続が一層増えることが予想されます。これからの個人の確定申告に向けて、事前に準備を進めておいていただければ幸甚です。
<令和3年度税制改正要望について>
令和3年度の税制改正要望がまとまりつつあります。財務省のウェブサイトに掲載されている「令和3年度の税制改正要望の状況について」によりますと、9月30日時点において、各省庁から出された要望項目数は236にのぼります。今後、自民党税制調査会において審議され、例年12月中旬に税制改正大綱として公表される予定です。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2021/request/index.htm
今回は、この中から特に「新設」のもので、トピック性の高い項目について概略を紹介していきます。
1. 法人税 企業再生税制の拡充(事業再生ファンドによる債権放棄の追加)
【内閣府、金融庁、中小企業庁】
企業再生税制につきましては、中小企業の事業再生を支援する観点から、内閣総理大臣及び経済産業大臣が指定する事業再生ファンド(特定投資事業有限責任組合)により債権放棄が行われた場合についても、特例(評価損の損金算入が可能等)が措置されていたところ(平成31年3月末まで)。新型コロナウイルス感染症拡大による影響を受けた中小企業の事業再生が発生することから、事業再生ファンドによる債権放棄が行われた場合の特例措置を復活させます。
2. 所得税 第三者への事業承継に係る課税猶予措置【金融庁】
中小企業の円滑な事業承継を促進するために、第三者への事業承継について、譲渡益課税を猶予する措置を講じます。
経営者の高齢化が進む現状において、中小企業の円滑な事業承継は、重要な政策課題です。こうした中、親族等の後継者が決まっていない場合には、金融機関等により第三者への事業承継の仲介支援が行われています。しかしながら、第三者への事業承継については、創業利益が一括で株式譲渡課税(20%)されるため、承継の障害となっているとの指摘があります。
新型コロナウイルス感染症の影響により自主廃業を迫られる中小企業も少なくないと考えられ、早急な対応が必要です。
3. 法人税 中堅・中小企業向け融資促進支援のための時限措置【金融庁】
中堅・中小企業向けプロパー融資の前年度比増加額の一定割合について、損金として認められる税制特例の創設を要望します。
※プロパー融資‥金融機関が実行する国内勘定の企業向け融資のうち信用保証協会の保証
がない法人事業性融資。
コロナ禍により資金繰りがひっ迫している中堅・中小企業に対して金融機関がより円滑かつ積極的な融資を行える環境を整備することで日本経済の底支えを図ることを目的とします。
コロナ禍の影響が長引く中、資金繰りを含めた金融機関による事業者支援の必要性が増大しています。特に、制度融資ではカバーしきれない部分(プロパー融資)で金融機関に期待される役割は一層大きくなります。こうした中、金融機関が融資で積極的に新たなリスクを取ったとしても、税務上損金と認められる貸倒引当金は機械的に算出された低い水準に抑えられ、金融機関に税負担が生じることで貸出余力が損なわれる可能性があります。このため、金融機関が期待される役割を果たし続けるためには、リスクを負っても、貸出余力が損なわれないよう支援していくことが必要です。
4. 相続税 上場株式等の相続税に係る見直し【金融庁】
高齢者が老後資金のために蓄えた資産を安心して保有し続けることのできる環境を整備する観点から、上場株式等について、相続税の見直しを行います。
他の資産との比較における相続税の負担感の差により、投資家の資産選択を歪めることがないよう、上場株式等の相続税評価について、所要の措置を講ずることを目的とします。
上場株式等は、不動産等と比較して変動リスクの高い金融商品ですが、相続税の評価においては相続の時価等で評価されます。このため、上場株式は、他の価格変動リスクの小さい資産と比べ、相続税評価上の扱いが不利(相続税評価額が割高)となっています。当該相続税の負担感の差により、投資家の資産選択を歪めることがないよう、上場株式等の相続税評価の見直しが必要です。
5. 所得税 金融所得課税の一体化(金融商品に係る損益通算範囲の拡大)
【金融庁、農林水産省、経済産業省】
「金融所得課税の一体化」に向けて、必要な税制上の措置等を講じます。
個人投資家の市場参加を促すことを通じて、国民の長期的な資産形成が図られるとともに、投資家が多様な金融商品に投資できる総合取引所の活性化を通じて日本が国際金融センターとしての地位を確立することを目的とします。
金融商品間の損益通算の範囲については、平成25年度税制改正において、上場株式等に加え、特定公社債等にまで拡大されました(平成28年1月より実施)。しかし、デリバティブ取引・預貯金等については、いまだに損益通算が認められていないことから、金融商品に係る損益通算範囲を拡大することが必要です。
6. 登録免許税 相続登記の促進のための登録免許税の特例措置の拡充及び延長【法務省】
いわゆる相続登記が未了となっている土地の発生については,その主要な要因として相続登記に係る費用の負担が指摘されています。このため,土地の相続登記に係る登録免許税について特例措置を設けることで相続登記を促進します。
7. 印紙税 印紙税のあり方の検討【経済産業省】
印紙税は経済取引における契約書や領収書等に対して課せられる文書課税であるが、近年の電子取引の増大等を踏まえ、制度の根幹からあり方を検討し見直します。
経済取引に伴う事務的負担及び税負担を公平かつ簡素にすることにより、国内経済の活性化を実現することを目的とします。
また、施策の必要性として下記があげられています。
印紙税が創設された明治6年以降、経済実態の変化に伴い、金銭等の受取書につきましては、中小企業の取引実務にも配慮して免税点(5万円未満)が設けられています。他方、経済取引の数は莫大に増えており、印紙税に係る事務コストや税負担が、中小零細企業を始め、企業にとって無視できないコストとなっているとの指摘があります。
② また、電子取引などに対して印紙税は課税されないなど、取引手段の選択によって課税の公平性が阻害されているとの指摘もあります。
特に、小売・物販業等においては、近年、カード決済が増大してきており、印紙税が取引実態の変化に対応できていないとの指摘も強くあります。上記の視点を踏まえ、制度の根底から、そのあり方を早急に検討することが必要です。
8. 所得税、法人税、消費税その他の国税 電子帳簿保存制度等を含む申告・納税手続に関する制度及び運用に係る所要の整備【経済産業省】
感染症防止への対応が迫られる中で顕在化した社会的課題や新しい生活様式等を踏まえ、申告・納税等の税務手続の一層の電子化の推進等の観点から、企業等の事務負担軽減やバックオフィス効率化に資するよう、国税関係帳簿書類の保存の電子化に関する制度や、税務書類の押印規定等について、所要の見直しを講じます。
9. 所得税、法人税 自社株式等を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置
【経済産業省】
令和元年12月に成立した改正会社法において、自社株式等を対価とするM&Aについて、新たに「株式交付制度」が創設され、これに対応した税制改正が併せて行われる必要があります。自社株式等を対価とした株式取得による事業再編については、企業が新たな付加価値の創出・獲得に向けたオープン・イノベーションの促進に有効な手法であり、我が国企業の収益性の向上に資するものと考えられます。このため、株対価M&Aの課税繰延べを講じることで、我が国における事業再編の円滑化を図ります。
<中小企業成長促進法について>
令和2年10月1日に、「中小企業の事業承継の促進のための中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律」(以下、「中小企業成長促進法」といいます。)が施行されました。
中小企業成長促進法は、中小企業の廃業を防ぐとともに、中小企業が積極的に事業展開を行い、成長できる環境を整備するために、経営者保証の解除支援、みなし中小企業者特例、海外展開支援、計画制度の整理など、必要な措置を講ずるものです。
具体的には、中小企業による事業承継の円滑化を図るため、事業承継の障壁となっている経営者保証の解除に係る支援、経営力向上計画及び地域経済牽引事業計画における事業承継支援並びに親族内承継に関する支援体制の整備等の措置を講じています。さらに、みなし中小企業者特例による中堅企業への成長環境の整備や、異分野連携新事業分野開拓計画等の整理・統合による各種計画制度の利便性の向上、中小企業の外国関係法人等に対する支援措置の拡充を行う内容が盛り込まれています。
このうち、経営者保証の解除に係る支援については、事業承継の障壁の一つとなっていて、下記図解のとおり、後継者候補はいるが承継を拒否しているケースの約7割が、経営者保証を理由に承継を拒否している結果となっています。
このような中、令和2年4月から信用保証の一般枠(2.8億円)の範囲内で、事業承継時に経営者保証を不要とする「事業承継特別保証」という新たな信用保証制度が創設されています。さらに、今回の法改正による措置として、上記に加え一般枠ではカバーできない融資に対して、経営者保証を不要とする信用保証の特別枠(最大2.8億円)を「経営承継借換関連保証」として新たな措置が設けられました。
具体的な経営者保証の解除スキームのイメージ図と両保証制度の概要は、下記のとおりです。
両保証の資格要件の②に「返済緩和中ではないこと」とありますが、※2に記載されているとおり、新型コロナウィルス感染症の影響により条件変更を行った事業者については、本項目は特別に除外することとなっています。新型コロナウィルス感染症の拡大が企業における事業承継にも大きく影響を与えていますが、本保証制度を有効に活用し、円滑な事業承継に資することができればと思います。
令和2年9月30日に、国税庁ウェブサイトに「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(令和2年9月改訂)」が掲載されました。昨年10月1日から消費税率の引き上げと消費税の軽減税率制度の実施が開始されましたが、今回の改定の主な項目は、「区分記載請求書等の記載方法等」についてです。
消費税の軽減税率制度の導入が始まって1年が経過しましたが、実務において課題となっている請求書等の記載方法について、改めて論点整理して発表したものと思われます。
その具体的な改訂項目は、下記のとおりです。
参考URL
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/03-01.pdf
具体的な内容についての詳述は省略しますが、ほとんどの項目が軽減税率の適用対象となる商品等の記載方法についてです。
昨年9月から導入された「区分記載請求書等保存方式」については、上記のとおり改訂版などが発表され、実務においては徐々に浸透してきていますが、令和5年10月から導入予定の「適格請求書等保存方式」についても準備をしておく必要があります。
「適格請求書等保存方式」が導入された場合、最大のポイントは、「適格請求書発行事業者の登録番号」を請求書等に記載する必要がある点です。この「適格請求書」の発行は、適格請求書発行事業者の登録を受けた課税事業者のみしか認められません。したがって、免税事業者は「適格請求書」の発行はできません。
消費税の納税義務の判定は、基準年度における課税売上高が1,000万円を超えるかどうかです。一般的に基準年度は、個人であれば2年前、法人であれば2事業年度前となります。令和5年10月から「適格請求書等保存方式」が導入されたとした場合、例えば、個人であれば2年前の令和3年の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかにより、「適格請求書」が発行できる事業者かどうかが決まります。もちろん「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、自ら課税事業者を選択することも可能ではあります。
「適格請求書」が発行できる事業者かどうかにより、仕入れ側において仕入税額控除ができるかどうかが分かれることとなります。それによって、今までの得意先から「『適格請求書』が発行されない事業者なのであれば、仕入税額控除ができる『適格請求書』を発行してもらえる事業者に変更する」というような話も出かねません。3年後の「適格請求書等保存方式」の導入に向けた準備も少しずつ意識しておかれることをお勧めします。
<「法人版事業承継税制」について>
令和2年7月7日に国税庁資産課税課より、「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例措置等に関する質疑応答事例について(情報)」が公表されました。全部で114の質問項目があり、延べ182頁にもわたるものです。特例措置に関する項目が中心ではありますが、中には一般措置との適用関係に関する項目も記載されています。
そこで、改めて法人版事業承継税制の特例措置と一般措置の違いを触れた上で、贈与税および相続税のそれぞれの適用要件を中心に確認していきます。
※参考URL https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/pdf/0020007-054_02.pdf
(1)概要
法人版事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」という)」の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
この法人版事業承継税制には、「一般措置」と「特例措置」の2つの制度があり、特
例措置については、事前の特例承継計画の策定等や10年以内の贈与・相続等といった適用期限が設けられていますが、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃や納税猶予割合の引上げ(80%から100%)がされているなどの違いがあります。(2)非上場株式等についての贈与税の納税猶予の主な適用要件
①会社の主な要件
次の会社のいずれにも該当しないこと
⑴ 上場会社
⑵ 中小企業者に該当しない会社
⑶ 風俗営業会社
⑷ 資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く。)
②後継者である受贈者の主な要件
贈与の時において、
⑴ 会社の代表権を有していること
⑵ 20歳以上であること
⑶ 役員の就任から3年以上を経過していること
⑷ 後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権
数を保有することとなること
⑸ 後継者の有する議決権数が、次のイ又はロに該当すること(特例措置)
イ 後継者が1人の場合は、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く。)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
ロ 後継者が2人又は3人の場合は、総議決権数の10%以上の議決権数を保
有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く。)の中で最も
多くの議決権数を保有することとなること
③先代経営者等である贈与者の主な要件
⑴ 会社の代表権を有していたこと
⑵ 贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
⑶ 贈与時において、会社の代表権を有していないこと
④担保提供
納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。ただし、この制度の適用を受ける非上場株式等の全てを担保として提供した場合には、納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保の提供があったものとみなされます。
⑤取得株数要件(特例措置)
後継者は、次の⑴又は⑵の区分に応じた一定数以上の非上場株式等を取得する必要があります。
⑴ 後継者が1人の場合
次の①又は②の区分に応じた株数
① a≧b× 2/3 -cの場合・・・「b × 2/3 -c」以上の株数
② a<b× 2/3 -cの場合・・・「a」の全ての株数
⑵ 後継者が2人又は3人の場合
次の全てを満たす株数
① d≧b×1/10
② d>贈与後における先代経営者等の有する会社の非上場株式等の数
a:贈与の直前において先代経営者等が有していた会社の非上場株式等の数
b:贈与の直前の会社の発行済株式等の総数
c:後継者が贈与の直前において有していた会社の非上場株式等の数
d:贈与後における後継者の有する会社の非上場株式等の数
(3)非上場株式等についての相続税の納税猶予の主な適用要件
①会社の主な要件
次の会社のいずれにも該当しないこと
⑴ 上場会社
⑵ 中小企業者に該当しない会社
⑶ 風俗営業会社
⑷ 資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く。)
②後継者である相続人等の主な要件
⑴ 相続開始の日の翌日から5か月を経過する日において会社の代表権を有して
いること
⑵ 相続開始の時において、後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
⑶ 相続開始の時において後継者が有する議決権数が、次のイ又はロに該当すること(特例措置)
イ 後継者が1人の場合は、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く。)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
ロ 後継者が2人又は3人の場合は、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く。)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
⑷ 相続開始の直前において、会社の役員であること(被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く。)
③先代経営者等である被相続人の主な要件
⑴ 会社の代表権を有していたこと
⑵ 相続開始直前において、被相続人及び被相続人と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
④担保提供
納税が猶予される相続税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。ただし、この制度の適用を受ける非上場株式等の全てを担保として提供した場合には、納税が猶予される相続税額及び利子税の額に見合う担保の提供があったものとみなされます。
(4)まとめ
法人版事業承継税制は、あくまで納税の猶予制度であり免除制度ではありません。したがって、納税の猶予を継続するためには、贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予に切り替える必要があります。その逆もまた同様です。したがって、上記(2)および(3)のとおり、適用要件が極めて類似しています。
また、特例措置は令和9年12月31日までの贈与及び相続等に限られ、その特例措置を受けるための都道府県へ提出する特例承継計画は令和5年3月31日までに行う必要があります。
取引相場のない株式(自社株式)の評価額がどの程度の金額か、まずは概算した上で、本制度を適用するかどうかを慎重に見極める必要があります。
以上
<自民党ウェブサイト(あなたが使える緊急支援)のまとめについて>
令和2年4月30日、令和2年度第一次補正予算が国会で成立し、その後、6月12日に令和2年度第二次補正予算が国会で成立しました。新型コロナウィルス感染拡大に伴い、第一次補正予算と併せて総額230兆円にものぼる緊急経済対策が柱となっています。
4月28日に自民党のウェブサイトにおいて、「新型コロナウィルスにともなうあなたが使える緊急支援」と題した特設サイトが開設され、その後、第二次補正予算の成立に伴い、随時修正等が行われています。
その大きな目玉は、家賃支援給付金の創設や雇用調整助成金の上限額の変更です。
国、都道府県、市区町村の施策等、膨大にのぼる緊急支援策のなかで、主に国の施策について、本ウェブサイトは「個人」、「個人事業主・フリーランス」、「中小企業」、「大企業」の別に「うけとる」、「かりる」、「減額・免除」、「猶予等」に分かれていて、大変見やすいものとなっています。
令和2年8月31日時点において、各項目別になっているものを一覧にしたものが下記のとおりです。
皆様の置かれている状況に応じ、下記一覧を確認した上で、本ウェブサイトで概要を確認し、その後、関係各省庁のウェブサイトで詳細を確認することをお勧めします。
なお、本稿については、令和2年5月8日にも配信していますが、その後、追加及び修正が加わった項目について太字にて明示していますので、ご参照下さい。
以上
<「年末調整手続の電子化に係るFAQ」の一部改訂について>
令和2年7月27日に国税庁ウェブサイトに、「年末調整手続の電子化に係るFAQ」の改訂が公表されました。
平成30年度税制改正により、令和2年分の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等について、勤務先へ電子データにより提供できるよう手当されました。
これにより、年末調整手続の電子化に向けた施策が実施されることになり、従業員にとっても勤務先にとっても、控除証明書等を紙でやり取りしていたときよりも、利便性が向上され、コスト削減等にもつながることが期待されています。
そこで、本稿では、年末調整手続の電子化の概要から、電子化へ向けた準備について解説していきます。
1.年末調整手続の電子化の概要
従来、年末調整手続は、
(1)従業員(給与等の支払を受ける方)が、保険会社、金融機関、税務署等(以下
「保険会社等」といいます。)から控除証明書等を書面(ハガキ等)で受領
(2)従業員が、保険料控除申告書又は住宅ローン控除申告書に、(1)で受領した
書面(ハガキ等)に記載された内容を転記の上、控除額を計算し記入
(3)従業員が保険料控除申告書及び住宅ローン控除申告書など、年末調整の際に
作成する各種申告書(以下「年末調整申告書」といいます。)を作成し、控除証明書等
とともに勤務先(給与等の支払者)に提出
(4)勤務先が提出された年末調整申告書に記載された控除額の検算、控除証明書
等の確認を行った上で、年税額を計算
という流れで進められてきました。
これに対し、年末調整手続が電子化された場合は、次のような手順となります。
(1)従業員が、保険会社等から控除証明書等を電子データで受領
(2)従業員が、国税庁ホームページ等からダウンロードした年末調整控除申告書作
成用ソフトウェアに、住所・氏名等の基礎項目を入力し、(1)で受領した電子デー
タータをインポート(自動入力、控除額の自動計算)して年末調整申告書の電子
データを作成
(3)従業員が、(2)の年末調整申告書データ及び(1)の控除証明書等データを勤
務先に提供
(4)勤務先が、(3)で提供された電子データを給与システム等にインポートして年税
額を計算
(1)電子化の実施方法の検討
年末調整の電子化を実施するに当たり、従業員が使用する年末調整申告書作成用のソフトウェアについてどのソフトウェアを使用するか、電子化後の年末調整手続の事務手順をどうするかなどを検討します。
※従業員が提供する年末調整申告書データは、国税庁から提供する年調ソフト
だけでなく、仕様公開を通じ同様の仕組みを取り込んだ民間のソフトウェアでも
作成することができます。
(2)従業員への周知
従業員から年末調整申告書を電子データにより提供を受けるに当たり、法令上は事前に従業員から同意を得る必要はありません。
しかし、電子化に当たっては、従業員においても、保険会社等から控除証明書等データを取得するための手続など、事前準備が必要となることから、電子化する際には従業員への早期の周知が必要となります。
また、(1)で決定した、従業員が使用する年末調整申告書作成用のソフトウェアや事務手順について周知する必要があります。
なお、従業員から控除証明書等データの取得方法について照会があった場合
には、マイナポータル連携により取得することができる旨周知する必要があります。従業員の方のマイナンバーカードの取得が間に合わないなどにより、マイナポータル連携による取得ができない場合は、その従業員が契約している保険会社等のホームページ等から控除証明書等データを取得するよう周知する必要があります。
(3)給与システム等の改修等
従業員から提供を受ける年末調整申告書データや控除証明書等データを、ご利用の給与システム等にインポートし、年税額等の計算を行うためのシステムの改修等を行います。
なお、令和2年分からの所得金額調整控除の額については勤務先において計算するので、それに係る改修も必要です。
(4)税務署への届出
従業員から年末調整申告書に記載すべき事項を電子データにより提供を受けるためには、勤務先があらかじめ所轄税務署長に、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要があります。
3.従業員における年末調整手続の電子化へ向けた準備
(1)年末調整申告書作成用のソフトウェアの取得
保険会社等から取得する控除証明書等データを利用して年末調整申告書データを作成するためのソフトウェア(国税庁が提供する「年末調整控除申告書等作成用ソフトウェア」など)を取得します(利用するソフトウェア等については勤務先に確認して下さい。)。
(2)控除証明書等データの取得(マイナポータル連携を利用しない場合のみ)
保険会社等のホームページ等から、控除証明書データを取得します。(具体的な取得方法は保険会社等により異なります。)。
※マイナポータル連携を利用する場合は、年末調整申告書データの作成中に、民間送達サービスに送達された複数の控除証明書等データをマイナポータルを通じて一括取得するため、(2)の手続は不要となります。
以上
<「令和2年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び
業種目別株価等について」の一部改正について>
令和2年8月7日に国税庁ウェブサイトに、「『令和2年分の類似業種比準価額計
算上の業種目及び業種目別株価等について』の一部改正について」が公表されました。
この類似業種比準価額計算上の業種目別株価は、例年2か月ごとに、直前の2か月分がアップデートされていて、今回は令和2年分5月分と6月分の業種目別株価が公表されました。
新型コロナウィルス感染拡大の影響から、当該業種目別株価の指標として抽出されている各上場企業の株価も大きく変動しており、その動きが注目されていました。前回公表された3月分と4月分は、新型コロナウィルス感染拡大の影響により各業種ともに大きく株価が下がっていましたが、今回公表された5月分と6月分については、ほとんどの業種目別株価が回復しています。
そこで、令和元年平均値に対して令和2年3月分と4月分がどの程度減少しているか割合ごとで示し、かつ、下落率の大きい業種順に順位を示しました。これをみると、やはり、飲食店業や宿泊業等が大きく株価が下落していることが読み取れます。
<下落率の大きい業種上位10業種>
1.【中分類】繊物・衣服・身の回り品小売業
2.【中分類】生活関連サービス業
3.【中分類】その他の宿泊業、飲食サービス業
4.【中分類】職業紹介・労働者派遣業
5.【大分類】生活関連サービス業、娯楽業
6.【小分類】その他の飲食店
7.【大分類】宿泊業、飲食サービス業
8.【小分類】専門料理店
9.【中分類】飲食店
10.【中分類】インターネット附随サービス業
今後、第二波第三波の影響により株価の動きがどのように変化していくか不透明ではありますが、取引相場のない株式を生前に贈与や譲渡等を検討している方におかれては、引き続き、これらの業種目別株価に注目していく必要があります。
以上
<家賃支援給付金について>
令和2年7月14日から、家賃支援給付金の申請サイトが開設され、手続きが開始となりました。
家賃支援給付金は、新型コロナウィルス感染症を契機とした5月の緊急事態宣言の延長などにより、売上の減少に直面する事業者の事業の継続をささえるため、地代・家賃等の賃料の負担を軽減することを目的として、賃借人である事業者に対して給付金を給付するものです。
その具体的な申請手続きは、持続化給付金と多くの点で共通しています。今回は、家賃支援給付金の内容や申請手続きの概要を紹介していきます。
(1)給付の対象
法人につきましては、資本金10億円未満の中堅企業、中小企業、小規模事業者を対象とし、医療法人、農業法人、認定NPO法人、社会福祉法人など、会社以外の法人も幅広く対象としています。
また、個人においても、フリーランスを含む個人事業者と幅広く対象としています。
具体的な支給対象の要件としては、下記のとおりです。
・2020年5月~12額の売上高について、1か月で前年同月比▲50%以上、または連続する3ヵ月の合計で前年同期比▲30%以上を満たしているかどうか
・自らの事業のために占有する土地・建物の賃料を支払っているかどうか
(2)給付額およびその算定方法
申請日の直前1か月以内に支払った月額賃料をもとに算定された月額給付額の6倍相当額が給付されます。
法人は最大600万円で、個人は最大300万円です
給付金の申請期間は、2020年7月14日から2021年1月15日までです。
電子申請の締め切りは、2021年1月15日の24時までであり、締め切りまでに申請の受付が完了したもののみが対象です。
(4)申請方法
持続化給付金と同様に、パソコンやスマートフォンで家賃支援給付金のウェブサイトへアクセスし、ウェブ上で申請の手続きを行います。
また、受付開始後、補助員が入力サポートを行う「申請サポート会場」を順次開催していますので、ウェブ上での申請が困難な場合は、「申請サポート会場」を利用することも可能です。
以上
<令和2年分の路線価等の公表について>
令和2年7月1日、国税庁のウェブサイトに令和2年度における路線価等が公表されました。路線価は、毎年1月1日時点を評価時点として、その年の7月1日に国税庁から発表されています。その評価地点は全国約32万地点の標準宅地におよびます。
路線価が付されている土地等につきましては、相続税及び贈与税の計算を行う際に、原則としてこれらの数値を利用して評価することとなっております。
今回は、本年分の路線価の全国の状況について紹介していきます。
(1)令和2年分の路線価の全国の状況
令和2年分の路線価の全国平均は、対前年比1.6%プラスとなり、5年連続で上昇しています。路線価全国一位の地点は、35年連続で東京都中央区銀座5丁目銀座中央通りの文具店「鳩居堂」前で、1平方メートルあたり45,920千円となっています。前年は45,600千円でしたので、0.7%上昇しています。
路線価の都道府県別の上昇率と下落率の上位5都道府県は下記のとおりです。
注目すべきは、上昇率上位5都道府県はいずれも前年比よりも上昇幅が増加していて、下落率上位5都道府県はいずれも前年比よりも下落幅が縮小しています。つまり、2020年オリンピック機運や訪日観光客によるインバウンド需要など、これから益々上昇していく可能性がありました。
しかし、今回の路線価の公表はあくまで、本年1月1日時点のものであるということに留意すべきです。現在は新型コロナウィルス感染の影響で、オリンピックの開催は1年延期となり、訪日環境客は4月には前年同月比の99.9%減となるなど、状況は180度変わりました。テレワークの普及等により、今後のオフィス需要等も一変する可能性が高いと思われます。
(2)今後について
このように、社会状況は新型コロナウィルス感染の影響で一変しています。そのため、国税庁において、今後の地価の推移によっては路線価等の減額修正を可能にする措置を検討しています。確かに令和2年1月の状況と令和2年5月の状況は全く異なり、一方で、一律に同じ路線価等を適用して相続税や贈与税の評価を行うことには不合理な面があります。
この減額措置について、国税庁が導入を検討しているのが、都道府県が公表する基準地価であるといわれています。これは、毎年7月1日時点を評価時点として、その年の9月ごろに公表されるものです。これは、国が公表する公示地価の補完的な指標ともいわれています。路線価も含めた3つの指標を比較すると下記のとおりです。
具体的にどの程度の下落が予想されるか、現状(令和2年7月執筆時点)では判断できませんが、現在、新型コロナウィルス感染の影響で申告(納付)期限までに申告や納税が困難な納税者に対しては、その延期を認めるなどの措置が取られています。贈与税は暦年単位課税でその申告のタイミングが翌年2月1日から3月15日となるため、申告時期には減額措置が公表されているか見極めが可能ですが、相続税については、申告期限が原則として相続発生後10か月となるため、判断が難しい状況です。本年1月に発生した相続税の申告期限は早くても10月となるため、場合によっては、評価の基礎的資料等は作成しておいて、9月下旬の基準地価の公表を待つのも一考の余地があるものと思われます。
以上
【国税における新型コロナウィルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ】について
令和2年5月15日、「国税における新型コロナウィルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」が国税庁ウェブサイトに公表されました。
3月にFAQとして公表された後、随時、更新されてきましたが、今回は、新たに下記の項目が追加されています。
問4-3 教育資金の一括贈与の非課税の特例における領収書の提出期限の延長について
問5-2 プロスポーツのスポンサー企業が行う復旧支援
問9-2 学生に対して大学等から助成金が支給された場合の取扱い
問9-3 従業員に対して事業者から見舞金が支給された場合の取扱い
問10 売上げの一部を寄附した場合の必要経費の取扱い
問12 賃料の減額を行った場合の消費税率等の経過措置について
このうち、問10の売上げの一部を寄附した場合の必要経費の取扱いについては、以下に掲げる要件を満たしている場合に、個人の事業所得の計算上、必要経費に算入できるとするものです。
必要経費として算入するためには、売上げの一部を寄附することを、あらかじめ顧客に理解してもらえるように、店内ポスターやホームページなどで広く周知していることが必要です。
また、その周知内容として、①指定商品の売上金額の一定割合を寄附金額とすること、②寄附先、③寄附日などをあらかじめ設定して、これらを周知する必要があるとしています。
一方、これらの要件を満たさなかった場合、事業所得の計算上、必要経費に算入することは認められないが、個人の家事上の経費として、寄附金(税額)控除の対象になり得るケースもあるため、別途検討する必要があります。
FAQの過去の更新や追加については、下記の表のとおりです。
今後も随時、更新される可能性があるため、定期的に国税庁のウェブサイトを確認してください。
※参照URL https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf
<緊急支援策のまとめについて>
令和2年4月30日、令和2年度補正予算が国会で成立しました。新型コロナウィルス感染拡大に伴い、政府がまとめた事業規模117兆円超の過去最大の緊急経済対策が柱となっています。
これに先立って、4月28日に自民党のウェブサイトにおいて、「新型コロナウィルスにともなうあなたが使える緊急支援」と題した特設サイトが開設されました。こちらの内容が「個人」、「個人事業主・フリーランス」、「中小企業」、「大企業」の別に「うけとる」、「かりる」、「減額・免除」、「猶予等」に分かれていて、大変見やすいものとなっています。
令和2年4月30日時点において、各項目別になっているものを一覧にしたものが下記のとおりです。
皆様の置かれている状況に応じて、下記一覧を確認した上で、自民党ウェブサイトで概要を確認し、その後、関係各省庁のウェブサイトで詳細を確認することをお勧めします。
※参照URL https://www.jimin.jp/covid19/
<新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)について>
令和2年4月7日に、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)として、下記の項目が閣議決定されました。これは、新型コロナウイルス感染症のわが国社会経済に与える影響が甚大なものであることに鑑み、感染症およびその蔓延防止のための措置の影響により厳しい状況に置かれている納税者に対し、緊急に必要な税制上の措置を講ずることを目的としています。
今回は、これらの措置について、その概略を紹介していきます。
なお、これらの案については、令和2年4月20日時点におけるものであるため、今後の動向は財務省のウェブサイトなどを確認してください。
・納税の猶予制度の特例【個人・法人】
・欠損金の繰戻しによる還付の特例【法人】
・テレワーク等のための中小企業の設備投資税制【個人・法人】
・文化芸術・スポーツイベントを中止等した主催者に対する払戻請求権を放棄した観客等への寄附金控除の適用【個人】
・住宅ローン控除の適用要件の弾力化【個人】
・消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例【個人・法人】
・特別貸付けに係る契約書の印紙税の非課税【個人・法人】
1.納税の猶予制度の特例制度(案)【個人・法人】
新型コロナウイルスの影響により事業収入が相当に減少した場合、担保を提供することなく、1年間、国税の納付を猶予することができる予定です。なお、猶予期間中の延滞税も免除となる予定です。
対象者
以下①②のいずれの要件も満たす個人および法人が対象となる見込みです。
①新型コロナウイルスの影響により、令和2年2月以降の任意の1ヵ月以上の期間において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%減少していること。
②一時に納税を行うことが困難な状況であること。
一時に納税を行うことが困難かどうかの判断については、少なくとも向こう半年間の事業資金を考慮に入れるなど、申請者の状況に配慮し適切に対応するとしています。
対象となる国税
令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する所得税、法人税、消費税等ほぼすべての税目(印紙で納めるもの等を除く)が対象となる。なお、これらのうち、既に納期限が過ぎている未納の国税(他の猶予を受けているものを含む)についても、遡ってこの特例を利用することができます。
申請手続き等
関連税制法案の施行から2ヵ月後、または、納期限(申告納付期限が延長された場合は延長後の期限)のいずれか遅い日までに申請が必要となる予定です。
2.欠損金の繰戻しによる還付の特例(案)【法人】
資本金の額が1億円を超える法人については、原則として青色欠損金の繰戻し還付制度(※)を適用することはできません。しかし、資本金1億円超10億円以下の法人は、例外として、青色欠損金の繰戻し還付を受けることが可能となる予定です。
ただし、大規模法人(資本金の額が10億円を超える法人など)の100%子会社および100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式の全部を保有されている法人等を除きます。
※ 青色欠損金の繰戻し還付制度とは、青色申告書を提出する法人について、その確定申告書を提出する事業年度において生じた欠損金額がある場合に、その法人の請求によりその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻して法人税の還付を受けることができる制度です。
3.テレワーク等のための中小企業の設備投資税制(案)【個人・法人】
中小企業者等が、テレワーク等のための設備の取得等をした場合、中小企業経営強化税制の適用を受けることができるようになる予定です。具体的には、以下の設備について、経済産業大臣の認定を受けた経営力向上計画に基づき取得等をした場合に、設備の即時償却または設備投資額の7%(資本金が3,000万円以下の法人は10%)の税額控除をすることができるようになる予定です。
4.文化芸術・スポーツイベントを中止等した主催者に対する払戻請求権を放棄した観客等への寄附金控除の適用(案)【個人】
新型コロナウイルス感染拡大防止のために中止等をした文化芸術・スポーツイベントのチケットを払い戻さず「寄附」することにより、税優遇を受けられる制度が新設される予定である。
具体的に、寄附金控除を受けるまでの流れのイメージは、下記のとおりです。
①主催者等からの申請に基づき、文化庁・スポーツ庁が対象となるイベントの指定を受ける。
②参加者が対象イベントの主催者に払戻しを受けないことを連絡し、その後、主催者等から対象イベント認定証明書(仮称)と払戻請求権放棄証明書(仮称)を入手する。
③確定申告の際に、上記2点の証明書と共に申告を行う。
④寄附金として税優遇の適用を受ける。
※いわゆる「ふるさと納税」等と同様に、寄附したとされた金額相当額から2,000円を控除した金額が対象となります。
※不特定多数を対象としていないイベントやそもそも払戻しが受けられないイベントは、対象外となる見込みです。
※地方税(個人住民税)の税優遇については、居住している自治体によって取り扱いが異なります。
5.住宅ローン控除の適用要件の弾力化 【個人】
(1)住宅ローン減税の控除期間10年間(13年間)の特例措置
新型コロナウイルス感染症の影響により入居期限(令和2年12月31日)が遅れた場合でも、以下の要件を満たした上で令和3年12月31日までに入居すれば、特例措置の適用対象となる予定です。
①一定の期日までに契約が行われていること。
・ 注文住宅を新築する場合:令和2年9月末
・ 分譲住宅・既存住宅を取得する場合、増改築等をする場合:令和2年11月末
②新型コロナウイルス感染症の影響によって、注文住宅、分譲住宅、既存住宅または増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと。
(2)既存住宅を取得した際の住宅ローン減税の入居期限要件(取得の日から6ヵ月以内)
取得後に行った増改築工事等が新型コロナウイルス感染症の影響で遅れ、入居が遅れた場合でも、以下の要件を満たしていれば、入居期限が「増改築等完了の日から6ヵ月以内」となる予定です。
①以下のいずれかの期日までに増改築等の契約が行われていること。
・ 既存住宅取得の日から5ヵ月後まで
・ 関連税制法案の施行の日から2ヵ月後まで
※施行の日より前に契約が行われている場合でも適用対象となる予定です。
②取得した既存住宅に行った増改築等について、新型コロナウイルス感染症の影響によって増改築等後の住宅への入居が遅れたこと。
6.消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例(案)【個人・法人】
消費税の課税事業者を選択する(またはやめる)にあたっては、原則として、その課税期間の開始前に届出書を提出する必要がありますが、今般の新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者につき、次の要件に該当するときは、税務署に申請し、税務署長の承認を受けることにより、課税期間の開始後であっても、課税事業者を選択する(またはやめる)ことが可能となる予定です。
(1)適用要件
①特例に係る法律(案)の施行後に申告期限が到来する課税期間において、
②新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの期間の内、一定期間(1ヵ月以上の任意の期間)の収入が、著しく減少(前年同期比概ね50%以上)した場合で、かつ、
③当該課税期間の申告期限までに申請書を提出した場合
※ 原則として、消費税の申告期限は、個人の場合が課税期間の翌年3月末であり、法人の場合が課税期間の終了の日の翌日から2ヵ月以内です。
(2)変更制限
本特例の適用を受けて、課税事業者を選択する場合、課税事業者を2年間継続する必要はありません。したがって、本特例により課税事業者を選択した課税期間の翌課税期間において、課税事業者の選択をやめることも可能となる見込みです。
免税事業者になることができるのは、その課税期間の基準期間(法人は前々事業年度、個人事業者は前々年)における課税売上高が1,000万円以下の事業者等です。
7.特別貸付けに係る契約書の印紙税の非課税(案)【個人・法人】
公的金融機関や民間金融機関等が、新型コロナウイルス感染症によりその経営に影響を受けた事業者に対して行う特別な貸付けに係る契約書(金銭消費貸借契約書)については、印紙税が非課税となる予定です。また、既に契約を締結し印紙税を納付した者に対しては、遡及的に適用し、還付を行う予定です。
<民法(債権法)の施行について>
令和2年4月1日から、民法の契約等に関する部分(債権法)が施行されました。この改正は、平成29年5月に「民法の一部を改正する法律」として成立していましたが、実務への影響が甚大であるため、その施行までに約4年の準備期間が設けられていたものです。
民法の債権法については、明治29年に制定されてから約120年もの間、実質的な改正がほとんど行われてきませんでした。
今回は、この民法(債権法)の改正について、その概要を説明していきます。
1.保証人の保護に関する改正
個人保証について、保証人を保護するために、大きく下記の2点が改正されました。
(1)極度額の定めのない個人の根保証契約は無効
「根保証契約」とは、一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約をいいます。
例えば、住宅等の賃貸借契約の保証人となる契約や法人の債務に対して保証人となる契約などを根保証契約によって行うことがあります。
この「根保証契約」は債務額が変動することから、個人である保証人を保護する必要があるため、今回の改正により、個人が根保証契約を締結する場合には、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、その保証契約は無効となることとなりました。
(2)公証人による保障意思確認の手続きの新設
会社や個人である事業主が融資を受ける場合、その事業に関与していない親戚や友人などの第三者が安易に保証人となってしまい、結果的に、予想もしなかった多額の債務の支払いを迫られる事態がたびたび発生していました。
そこで、個人が事業用融資の保証人になろうとする場合について、公証人による保証意思確認の手続きを新設し、この手続きを経ないでした保証契約を無効とすることとしました。
2.約款(定型約款)を用いた取引に関する改正
現代社会では、不特定の顧客を相手方として取引を行う事業者などがあらかじめ詳細な契約条項を「約款」として定めておき、この約款に基づいて契約を締結することが少なくありません。
このような約款を用いた取引においては、顧客はその詳細な内容を確認しないまま契約を締結することが通例となっています。これらに関して、民法上基本的なルールが全く定められていなかったため、今回の改正により、新たに「定型約款」に関して、一定のルールが設けられました。
3.法定利率に関する改正
「法定利率」とは、契約の当事者間に貸金等の利率や損害賠償金に関する合意がない場合に適用される利率のことをいい、一般的に民法においては年5%、商法(会社法)においては年10%と定められています。
一方で、昨今、極めて低金利の状態が長く続いており、これらの法定利率は高すぎるため、不公平が生じているとの指摘がなされていました。
そこで、今回の改正により、民法の法定利率を年5%から年3%に引き下げると共に、将来的に法定利率が市中の金利動向と大きく離れたものになることを避けるため、法定利率が、市中の金利動向に合わせて自動的に変動する仕組みを新たに導入することとなりました。
4.消滅時効に関する改正
「消滅時効」とは、債権者が一定期間権利を行使しないことによって債権が消滅する制度をいいます。長期間が経過すると、証拠が散逸し、債務者であるとされた者が債務を負っていないことを立証することも困難になるために、このような制度が設けられているといわれています。
この消滅時効期間について、一般的に民法は10年、商法(会社法)は5年と定められていますが、民法においては、例外的に職業別のより短期の消滅時効期間(例えば、弁護士報酬は2年、医師の診療報酬は3年など)を設けていました。今回の改正で、職業別の短期消滅時効の特例を廃止すると共に、消滅時効期間を原則として5年と統一化しました。
ただし、債権者自身が自分の権利を行使することができることを知らないような債権(例えば、債権者に返済金を過払いしたため、過払金の返還を求める債権については、過払いの時点では、その権利を有することを知らない状態であることがあります。)については、権利を行使することができる時から「10年」で時効となります。
<旧法における職業別の短期消滅時効の例>
※ なお、税理士の報酬については、短期消滅時効として定められていなかったため、原則どおり10年であったものが、今回の改正により5年と短くなったため注意する必要があります。
<納税の猶予と換価の猶予について>
令和1年分の所得税の確定申告の期限については、新型コロナウイルス感染の影響により令和2年4月16日木曜日まで延長されましたが、納税等が困難な状況に直面しているケースも多く発生していると思われます。
国税庁のホームページにおいても、納税の猶予と換価の猶予についての告知がされています。今回は、両者の違いについて説明していきます。
1.納税の猶予
納税の猶予は、国税通則法第46条に定められており、第2項において、下記のとおり規定されています。
<令和2年分以降の個人所得課税について>
令和1年分の所得税の確定申告の期限については、新型コロナウィルス感染の影響により令和2年4月16日木曜日まで延長されましたが、大詰めを迎えていることと思われます。
一方で、令和2年分の所得税においても大きな改正がなされ、すでに本年1月1日から開始されています。その一つが各種控除項目です。今回は、令和2年分から見直される所得税の各種控除項目について整理します。
1.各種控除項目の見直し
平成30年度税制改正において、下記の各種控除項目について見直しされました。
(1)給与所得控除額の見直し
(2)公的年金等控除額の見直し
(3)基礎控除額の見直し
これらの項目について、具体的な改正項目について紹介していきます。
2. 給与所得控除額の見直しについて
給与所得控除額については段階的に見直しがされてきましたが、令和2年分以降については、下記のとおり、一律10万円ずつ引き下げられました。
また、改正前は給与収入金額1,000万円超で給与所得控除額220万円が上限だったところが、給与収入金額850万円超で給与所得控除額195万円が上限と見直されました。
3. 公的年金等控除額の見直しについて
公的年金等控除額についても、給与所得控除額と同様に、下記のとおり一律10万円ずつ引き下げられました。
さらに、改正前は特に所得金額等による差異は設けられていませんでしたが、改正後は公的年金等に係る雑所得以外の所得の合計所得金額が1,000万円超2,000万円以下の場合には控除額がさらに一律10万円引き下がり、同合計所得金額が2,000万円超の場合にはさらに一律20万円引き下げられました。
また、改正前は控除額に上限はありませんでしたが、改正後は公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合の控除額について195.5万円の上限額が設定されました。
以上を図示すると下記のとおりとなります。
4. 基礎控除額の見直しについて
給与所得控除額と公的年金等控除額がそれぞれ一律10万円引き下げられることに伴い、基礎控除額については一律10万円引き上げられることとなりました。
ただし、合計所得金額が2,400万円を超える場合は合計所得金額に応じて控除額が逓減し、合計所得金額が2,500万円を超える場合には基礎控除は受けられないこととなりました。
改正後の基礎控除額については、下記のとおりです。
5. 所得金額調整控除等の創設について
以上の改正に伴い、所得金額が一定水準までの者であれば、控除額に変化が生じないような気もするが、昨今、働きながら年金を受給している者が増えてきています。このような場合、給与所得控除額および公的年金等控除額がそれぞれ一律10万円引き下げられ、基礎控除額が10万円引き上げられたとしても合計では10万円の引き下げとなってしまいます。
そこで、このような場合について、新たに所得金額調整控除が創設され、給与所得の金額から10万円を控除して調整されることとなりました。
6. 配偶者(特別)控除や扶養控除等を判定する際の所得金額について
これらの各種控除の見直しに伴い、配偶者(特別)控除や扶養控除の所得金額の判定もこれまでの合計所得金額38万円から48万円に引き上げられています。
(注)配偶者特別控除額の算定の基礎となる配偶者の合計所得金額の区分についても、それぞれ10万円引き下げられました。
7. まとめ
これまで見てきたように、各種控除について本年分から大幅に変更となる予定です。本年の年末調整業務は、配偶者控除等の見直しのとき以上に改正項目が多岐にわたるため、早い段階から準備を進めておく必要があります。
<住宅取得等資金の非課税制度について>
平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得または増改築等(以下「新築等」という。)の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」という。)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、次の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となります。
1.非課税限度額
受贈者ごとの非課税限度額は、次の(1)または(2)の表のとおり、新築等をする住宅用の家屋の種類ごとに、受贈者が最初に非課税の特例の適用を受けようとする住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日に応じた金額となります。
ここで留意すべき点は、あくまで非課税限度額の決定は、契約時点がいつであったかが重要であり、引渡し時点ではない点です。
上記の中で、最も非課税枠が大きいものが3,000万円です。そして、この非課税枠3,000万円が利用できるのは、令和2年3月31日までの契約締結分となります。
それでは、上限ギリギリの3,000万円の枠を利用するとした場合、いつ贈与を行えばよいのでしょうか。
これについては、当該物件の引渡しの時点と関連することとなります。具体的には、引渡し直前ということになります。例えば、引き渡し後の住宅ローンの返済のためにこの贈与資金を融通するとか、引渡しよりもかなり前の例えば中間金の支払い時に利用すると本特例が利用できないこととなります。
その理由としては、下記受贈者の要件の(6)に当てはまらないこととなってしまうためです。
2.受贈者の要件
次の要件の全てを満たす受贈者が、非課税の特例の対象となります。
(1)贈与を受けた時に、贈与者の直系卑属(贈与者は受贈者の直系尊属)であること。
※配偶者の父母(または祖父母)は直系尊属には該当しないが、養子縁組をしている場合は直系尊属に該当します。
(2)贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること。
(3)贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下であること。
(4)平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと(一定の場合を除きます。)。
(5)自己の配偶者、親族などの一定の特別の関係がある人から住宅用の家屋の取得をしたものではないこと、またはこれらの方との請負契約等により新築若しくは増改築等をしたものではないこと。
(6)贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
※受贈者が「住宅用の家屋」を所有する(共有持分を有する場合も含まれる。)ことにならない場合は、この特例の適用を受けることはできません。
(7)贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること(受贈者が一時居住者であり、かつ、贈与者が一時居住贈与者または非居住贈与者である場合を除きます。)。
なお、贈与を受けた時に日本国内に住所を有しない人であっても、一定の場合には、この特例の適用を受けることができます。
(8)贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること、または同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
※贈与を受けた年の翌年12月31日までに、その家屋に居住していないときは、この特例の適用を受けることはできないので、修正申告が必要となります。
本特例については、本年3月末で現在の上限3,000万円の枠は利用できなくなってしまいますが、上記のように具体的な贈与を実行する時点を見極めながら、慎重な判断が求められます。
<平成30年分の国外財産調書の提出状況について>
令和2年1月31日に、国税庁において、「平成30年分の国外財産調書の提出状況について」が公表されました。国外財産調書制度は、平成26年1月から施行され、平成25年分の国外財産調書から提出が義務付けられているものです。
1.国外財産調書制度の概要
国外財産調書は、毎年その年の12月31日において5,000万円を超える国外財産を有する居住者が、翌年3月15日までに、当該財産の種類、数量および価額その他必要な事項を記載して、税務署長に提出しなければならないものです。
同様の制度として財産債務調書制度があり、たとえ未提出であったとしても、罰金や懲役、加算税といった直接のペナルティは設けられていませんが、この国外財産調書制度については、罰則の適用があるのが特徴です。具体的には、正当な理由がなく期限内に提出がない場合または虚偽記載の場合に、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられる点です。
また、国外財産調書制度には、加算税の軽減措置と加算税の加重措置が存在します。この点は、財産債務調書制度と同様です。
・加算税の軽減措置
国外財産調書を期限内に提出した場合には、提出された調書に記載された国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても加算税を軽減(▲5%)
・加算税の加重措置
国外財産調書の提出がない場合または提出された調書に記載のない国外財産に係る所得税の申告漏れが生じたときには、加算税を加重(+5%)
2.国外財産調書制度の提出状況
平成25年分から今回公表された平成30年分までの6年間の提出状況の推移は下記の表のとおりです。
総提出件数も総財産額も、平成25年分から増加の一途をたどっています。日本の税務当局も各国の税務当局と連携しながら、国外財産の捕捉をしようとしていることが読み取れます。
具体的な財産の内訳では、有価証券が例年5割強を占めていることになります。これは、実際に海外に口座を設けて海外投資をしている富裕層が多いといえます。
ただ、有価証券については、国外転出時課税制度についても留意する必要があります。これは、1億円以上の有価証券等の対象資産を所有している居住者から、国外に居住する親族(非居住者)へ贈与、相続または遺贈により移転があった場合に、その贈与、相続または遺贈の対象となった対象資産の含み益に所得税および復興特別所得税が課税される制度です。居住者が贈与、相続または遺贈を受ける場合には問題がないですが、非居住者の場合には、この点についても確認しておく必要があります。
<住宅ローン控除と居住用財産の特例の併用について>
令和元年12月20日に令和2年度税制改正大綱が閣議決定されました。その中で、居住用財産の特例と住宅ローン控除の併用を認めない旨の内容が示されました。その背景としては、会計検査院からの「平成30年度の決算検査報告」の取りまとめが契機となっています。そこで、新たに併用ができなくなった今回の措置について、両特例を概説しながら紹介します。
1.両制度の概要
本件でいう居住用財産の特例の代表的なものは、租税特別措置法第35条に規定する「居住用財産の譲渡所得の特別控除」、いわゆる3,000万円の特別控除といわれるもので、自己の居住用財産を譲渡した際に特例として認められている措置です。そして、本特例は、居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の年末までの間に譲渡した場合も特例の適用が認められています。
一方で、住宅ローン控除は、新たに自己の居住用物件を取得した際に、当該居住の用に供した年から10年間、当該住宅借入金等の年末残高の合計額(上限あり)の1%を乗じて計算した金額が、税額控除として認められている措置です。
これらの規定は、居住用財産を買い替えた場合に、従前物件について3,000万円の特別控除を適用し、新規取得物件について住宅ローン控除の適用の両方を認めないとする措置を同条第21項で定めています。
本規定により、3,000万円の特別控除と住宅ローン控除については、基本的に併用適用することは困難ですが、従前物件である居住用財産を居住の用に供さなくなった年の3年目に新規住宅を取得した場合、両特例の併用適用が認められる期間が存在していました。これを図示すると下記のとおりです。
図表 両特例の特例が可能となる例(平成25年に旧住居から新住居へ転居した場合)
※会計検査院>平成30年度決算検査報告の概要>特定検査対象に関する検査状況>「租税特別措置
(住宅ローン控除特例及び譲渡特例)の適用状況、検証状況等について」参照。
図表のケース3のように、平成28年の旧住居の譲渡は、新住居の居住日の属する年と前後の2年間の譲渡には当たらず、かつ、旧住居が居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31までの譲渡に当たることから、両特例の併用が可能となります。
2.今回の改正の内容
今回の税制改正大綱において、上記のケース3の両特例が併用適用される期間について、その併用を禁止する取扱いが新たに設けられました。その具体的な内容は、下記のとおりです。
<国税関係手続の簡素化について>
1.各種書類の添付省略について
平成31年度税制改正等において、国税関係手続における添付書類の省略について、下記のとおり簡素化が図れることとなりました。具体的には、平成31年4月1日以後に提出する以下の申告・届出等については、住民票の写し等の各種書類の添付が不要になっています。そして、これらの対象手続に係る添付不要とする書類については、納税者に保存義務も課されていません。
令和元年分(平成31年分)の所得税の確定申告の開始に先立って確認しておいてください。
以上のように、令和元年分の所得税の確定申告においては、源泉徴収票等の添付は不要となります。しかし、確定申告書の第二表等には、引き続き当該源泉徴収票等の内容を記載する必要があるため、直接、税務署等で確定申告を作成する場合には、これらの書類を持ち込まないと作成することはできないことに留意する必要があります。
2.所得税の確定申告書の記載事項等の見直し
納税者の申告等の手続の簡素化のため、平成31年4月1日以後に提出する令和元年分の所得税の確定申告書については、所得控除額が年末調整で適用を受けた額と異動がない場合には、その合計額のみの記載とすることができるように記載事項の見直しが行われました。
具体的には、所得から差し引かれる金額の順番を変更するとともに、下記のような欄(⑩から⑳までの計)が追加されました。
なお、本取り扱いは、「年末調整で適用を受けた各所得控除の額」と「確定申告で適用を受ける各所得控除の額」とが同額であるなどの場合が前提となるため、例えば、生命保険料控除を追加で受けたい場合や誤って配偶者控除等の申請を年末調整時に受けた場合の修正については、省略は認められず各内訳の記載が必要になります。